「ダークナイト」感想

DVDで「ダークナイト」を鑑賞。以下にネタバレ感想を書くので、未見の人は要注意。

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クリスチャン・ベール, マイケル・ケイン, ヒース・レジャー, ゲーリー・オールドマン, クリストファー・ノーラン

ワーナー・ホーム・ビデオ 2008-12-10
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劇場で見た友人たちが軒並み褒めているだけあって、極めて質の高い映画だと思う。152分もの間、緊張感が途切れない脚本と演出はお見事だし、俳優たちの演技も気合いが入っている。アクションのキレも良いし、映像も美しい。でも、手放しで絶賛する気になれないんだよなー。個々のシーンは抜群に良くできてるんだけど、1本の映画として考えると冗長でバランスが悪いっつーか。上手く言えないけど、「凄く出来の良いTVシリーズ再編集映画」を見てるような気分になっちゃうのだ。

何でそう思えるのか、つらつらと考えてみたんだけど、結局のところ「すべてを丁寧に描きすぎてしまった」のが原因じゃないだろうか。具体的に言うと、ジョーカーとハーヴェイ・デント=トゥーフェイスという2人の物語を、あまりに公平かつ律儀に描きすぎたんじゃないかなぁ。

確かに、ジョーカーとバットマンの対決は見応えがあった。彼が仕掛けるいくつもの罠が、ゴッサムを未曾有の混沌へと陥れていくプロセスはスリリングだったし、ジャック・ニコルソンとは異なるジョーカー像を、見事に表現したヒース・レジャーの演技も素晴らしかった。バットマン世界における最強 (最凶・最狂) の敵であるジョーカーの魅力を、十全に引き出せていたと思う。

一方、正義感に溢れる有能な地方検事・デントが、全てをコイントスに委ねるヴィラン (悪漢)・トゥーフェイスへと変貌していくプロセスも、実に丁寧に描かれていた。トレードマークであるコインの使い方も巧みだったし。

でも、その両者を映画というメディアで同時に描くというのは、ちょっと無理があったように私には思える。なぜなら、映画としての焦点がぶれてしまう上に、それぞれの物語に決着をつけるために、クライマックスが2回必要になるからだ。複数のエピソードによって区切ることのできるコミックスやTVシリーズなら、また話は違うと思うんだけどね。

かと言って、単純に両者を分離すれば済むかというと、そうもいかないんだよなぁ。この作品は、バットマンとデントとジョーカーという、3人のキャラクターの立ち位置の違いが、重要な意味を持っているから。三者の共通点と相違点 (正義/悪、殺/不殺、法の内/外、理性/狂気などなど) が複雑に絡み合ってドラマに深みを与えてるわけで、安易に分離しちゃうと、その深みが失われちゃうんだよな。んーむ、困ったもんだ。

つーことで、面白かったし出来は良いんだけど、いろいろ悩ましい困った映画というのが、この作品に対する私の正直な感想なのであった。