キャラと銃の関連性に関する考察その1 (2があるかどうかは未定)

フィクションにおいて「登場人物の個性を小道具で表現する」という手法は、ごく一般的に使われているし、それに着目する受け手も多い。しかし、ものが銃となると、日本では実物に馴染みが薄いだけに、あまり語られることがない (ような気がする)。つーことで、中途半端なガンマニアである私が、中途半端にその辺を語ってみたいと思う。

 

[その1:ルパン三世 (アニメ第1シリーズ)]

ルパンの愛銃と言えば、ご存じワルサーP38。1938年にドイツ陸軍の制式拳銃として採用された半自動拳銃で、細い銃身がすらりと伸びた優美なスタイルと、精巧なメカニズムの冷たさを併せ持つ名銃である。

んで、P38がぴったりとフィットするのは、アニメ第1シリーズ、しかも大隈正秋が演出を手がけた (一部例外あり) シリーズ前半のルパンである。洗練された身のこなしとシニカルなユーモアセンスの持ち主で、普段はおどけて見せながら、必要とあれば平然と人を殺す大隈ルパンには、美しさと冷酷さを兼ね備えたP38が実によく似合うのだ。

それを逆説的に裏付けるように、大隈の後を継いだ宮崎駿によるルパンは、急速に冷酷さを失っていくと同時に、ほとんどP38を使わなくなっていく。第1シリーズの続編である「カリオストロの城」に至っては、わざわざレーザーで溶かしてまで使えなくするという念の入れようである。推測だが、宮崎はP38の個性を正確に把握しているが故に、「自分のルパン」には似つかわしくないと判断したのではあるまいか。大隈ルパンの愛車であったベンツSSKを、イタリアの大衆車であるフィアット500に変えたように。

 

余談:宮崎駿という人は、本来は銃や戦車といった武器/兵器が大好きなのだが、同時に「殺人の道具を愛好するのは間違っている」というアンビバレントな想いも持っており、その葛藤が作品に色濃く現れている。たとえば「カリオストロの城」で、わざわざP38を溶かしておきながら、次元にソ連製の対戦車ライフルなんつーマニアックな銃を使わせてるとこなんか、実に往生際が悪くて微笑ましいぞ

他にも「未来少年コナン」のギガントとか、「天空の城ラピュタ」の空中戦艦とか、「風の谷のナウシカ」のガンシップとか戦車とか巨神兵といったように、作品のテーマ的には否定されるべき「悪しきもの」ほどカッコ良く描いてしまうのも同様である。「忍ぶれど、作画に出にけりオタ心」って感じっすね。

 

[その2:深夜プラス1]

ずいぶん前にも旧所長室で取り上げた、イギリスの作家ギャビン・ライアルが書いた、冒険/ハードボイルド小説の傑作である。

主人公のルイス・ケインは元英国情報部員。第二次大戦中はカントンというコードネームでレジスタンスの支援を行っていた「歴戦の勇士」だったが、戦後は細々とビジネスエージェント (トラブルシューター)を営んでいる。とある事情から、訳ありの大富豪を護送することになったケインは、かつての愛銃モーゼル・ミリタリー M712を再び手にする …… ってなお話。

んで、その M712がどういう銃かというと、一言で言えばゲテモノ。ルックスからしてすでに異形な上に、最大 20発の 7.63mm高速弾をフルオートで撃てる (と言うか、ばらまける) という無茶な代物である。当然ながらでかくて重くて嵩張るわけで、コンビを組むことになったガンマンのハーヴェイ・ロヴェルから「どうやって持ち歩くんだ?貨物列車で先に送るのか?」などと揶揄される始末だ。

ケインがそうまでして、およそ実用的でない銃を使うのは、彼がいまだに「カントンであった自分」に拘っているからだ。と同時に、現在の彼がほとんど銃を使っていない事もわかる。だって、現役のプロだったら、絶対こんな銃使わないもの。使うのは、実用性よりスタイルを重んじる「ジオブリーダーズ」の梅崎くらいなもんであるよ。

一方、ロヴェルはアメリカ人の元シークレットサービス。彼が使うのは、メーカー不詳で 5連発の 38口径スナブノーズ (短銃身) リボルバーである。コンパクトで隠しやすく、必要十分な威力があり、動作が確実という特徴を持っており、日常的な道具として銃を使うロヴェルらしい選択だと言える。あえてメーカー名やモデル名を書かない辺りも、「使えればそれで良い単なる道具」であることを強調している。

二人が持つ銃の違いは、そのまま銃に対する考え方の違いであり、ひいては生き方の違いをも表している。ライアルはそういった描写が抜群に上手く、カタログデータを引き写すことしかできない凡百の作家とは、格が違うのであったよ。未読の人はぜひ読んでいただきたい。

 

つーことで、どんな銃を使わせるか (あるいは使わせないか) という描写一つでも、キャラの個性を表現することができるのであるよ。長くなったんで、今日はここまでにするけど、また気が向いたらあれこれ書くことにしよう。