「老人Z」再見

遅ればせながら、先週末に実家で見た録画の感想を少々。今日取り上げるのは CS で放送された「老人Z」。

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松村彦次郎 横山智佐 小川真司

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老人Z」のタイトルを聞いてまず思い出すのは、半ば伝説と化した予告編のことだ。本編映像をまったく使わず (つーか、使おうにも存在しなかったらしい)、和太鼓の BGMに合わせて文章が表示されるだけ。しかも内容は「全然できてない事についての弁明」という、前代未聞の代物であった。

まあ、一般的な予告編にも、ほとんど映像を使わないティーザーと呼ばれるものがあるけど、普通そういうのは短くまとめるものだ。しかし「老人Z」の予告編は長かった。「もう終わるかと思わせてまだ続く」というパターンが、数分に渡って繰り返されるのである。本来なら「なめとんのかコラ」と、スクリーンに向かってコーラの紙コップでも投げつけたくなるところだ。

ところが、この予告編は面白かった。和太鼓のリズムにシンクロして、あるときは無駄に力強く、またあるときはダラダラと表示される文字列は、十分に「映像」として楽しめるレベルのもので、そこに自虐と開き直りがミックスされたギャグがふんだんに盛り込まれて、やけに笑える予告編として仕上がっていたのだ。まあ、大友克洋江口寿史が組んだという時点で、観客側に「遅れて当たり前という共通認識ができあがってたんで、寛容な気持ちで笑ってられたってのもあるんだろうけどね。つーか、むしろ完成したことの方がビックリ、みたいな。

さておき、十数年ぶりに本編を見たわけだが、いやー、今見ても十分に面白いわコレ。高齢化社会と老人介護問題に鋭くメスを入れ、テクノロジーに頼った心なき福祉に警鐘を鳴らす …… なんてことは全然なく、様々な機械を取り込みながら暴走する人工知能搭載全自動原子力介護ベッド・Z001号が巻き起こすドタバタを描いた、痛快スラップスティックコメディなのであったよ。いやもう、小気味良いほど動く動く。鎌倉を目指して突っ走るZ001号と、それを追う人々のアクションを見てるだけで、幸せな気分になれるぞ。

登場人物たちも、深みはないけど適度にキャラが立っていてイイ感じ。Z001号のモニターに選ばれた高沢老人を救おうとして、暴走のトリガーを引いてしまう主人公・晴子とハッカー爺ちゃんズ。頭の固い役人かと思いきや、意外なほど熱いハートを持った厚生省 (当時) の寺田。初代マスオさんこと近石真介の悪役演技が光る長谷川。ボケっぷりがキュートな高沢老人。そして彼の亡き妻の人格を宿し、彼の望みをひたすら叶えんと奮闘するZ001号。みんな良い味を出してるっす。つーことで、未見の人はぜひ一度は見て欲しい作品である。

しかし、エンディングのクレジットを見て驚いたんだけど、スタッフの顔ぶれが凄いのなんの。神山健治今敏沖浦啓之鶴巻和哉といった、現在アニメの第一線でブイブイ言わせてる人々が集結してたんだねえ。そういった意味でも貴重な作品かも知れない。

それと余談なんだが、amazon で田中元って人が書いてるエディター・レビューはちょっと変。「さまざまな機械を取り込んで進化していくコンピュータのイメージはまるで『AKIRA』の金田や『攻殻機動隊』の人形使いを彷彿とさせ」って書いてるんだけど、金田はコンピュータじゃないっすから。単なる健康優良不良少年ですから。つーか、「AKIRA」に進化するコンピュータなんて、出て来ねえべさ。