「戦場のヴァルキュリア」第1話〜第2話感想

CSで「戦場のヴァルキュリア」を第2話まで鑑賞。架空の1930年代ヨーロッパを舞台に、「帝国」と「連邦」の戦争に巻き込まれた小国「ガリア」の義勇軍部隊の活躍を描く戦争アニメ。原作は、PS3シミュレーションRPGだそうな。

んで、お話の方は、気の強い美少女ヒロインと、のほほんとした天然系お坊ちゃん主人公が、ひょんな事から知り合って敵と戦い、後に義勇軍の基地で再会するところまで。言わばプロローグが終わった程度なんで、まだストーリーを云々できる段階ではない感じ。じゃあ何について云々するかというと、作中に登場する兵器と、その描写に関するお話。つーかツッコミ。いやまあ、美少女ヒロインがドンパチやらかすアニメだし、架空世界だし、ツッコミを入れるのも野暮かとは思うんだけど、モノがロボットじゃなくて戦車や自動小銃ってことになると、ついつい口を挟みたくなってしまうのだな、コレが。

まずはライフルについて。ガリア側も帝国側も、使用しているのは速射が可能な自動装填式ライフル。ガリア側は正規軍ではなく、小さな村の自警団だということを考えると、すでに前大戦 (我々の世界で言えば WW1か) の時点で、両軍とも実用化と大量生産が行われていたものと思われる。そうでないと、とても自警団まで行き渡らないだろうから。我々の世界では、WW2の段階で自動装填式ライフルを全面的に採用していたのはアメリカだけなんで、それと比較するとずいぶん進んでますな。帝国に至ってはフルオート射撃までできる、現代のアサルトライフルに近いものを使ってるし。

でまあ、その辺は「架空世界だから、そういうこともあり得るかな」と思えるんだけど、問題はそれを使った戦い方の描写だ。装備に差があるとは言え、積み上げた土嚢の背後に隠れてる自警団に対して、道の真ん中で横一列になって突っ立ったまま撃ちまくる帝国軍兵士ってのは、いくら何でもあり得ないだろ。どんだけ死ぬ気満々なんだよ …… と思ってたら、自警団の方も土嚢から上半身丸出しにした挙げ句、あっさり撃ち殺されるし。何のために土嚢を積んだんだお前ら。なんつーか、両軍共に甲乙 (て言うか丙丁?) 付けがたい馬鹿だなー。まあこれも「架空世界だから、そういうこともあり得るかな」と思え …… ないよなぁ、さすがに。

じゃあ戦車はどうかというと、(Wikipedia に記載された設定と併せて見てみると) 帝国軍は車体・砲塔共にリベット留めで、37口径45mmの対戦車砲を全周旋回式の砲塔に、10口径85mmの榴弾砲を車体前部の限定旋回式の砲塔に、それぞれ搭載した小型戦車を使用。こちらはライフルと違って、我々の世界の1930年代の戦車とあんまり変わらないっすね。イイ感じに無骨で古臭いデザインが、かなり私好みだ。あ、ちなみに「37口径45mm」ってのは、「口径が45mmで、砲身の長さが口径の37倍 (約1.7m)」という意味ね。

対する自警団の戦車は、車体&砲塔が溶接式で砲塔が1つだけという違いはあるものの、サイズ・攻撃力・守備力共に帝国側と大差ない性能と思われる。んで、両者の戦闘描写に関しては、さほど変なところはない。停車時の慣性の表現とか、発砲時の反動表現なんかは、なかなか頑張っててカッコイイと思うし。

問題なのは、主人公の義理の妹の実父 (ややこしいなオイ) が開発した試作戦車「エーデルワイス号」だ。傾斜装甲 (実質的な装甲厚を増し、砲弾を弾きやすくする効果がある) の採用は良いとしても、自動装填式の 44口径88mm砲搭載ってのは、なんぼ何でも先に進みすぎだろう。前述した帝国&ガリアの戦車の性能を考えると、設計者の発想は、先見の明を通り越して誇大妄想狂の域に達してると思うぞ。おまけにコイツ、帝国戦車よりはるかにでかくて重いのに、ずっと速く走れるわ、小回りが利くわ、スピンターンまでできるわで (普通キャタピラが千切れます)、デタラメなまでに高性能なのであった。その性能差たるや、ガンダム旧ザク、いやガンダムザクタンクくらいの差があるぞ。

でまあ、その辺はアニメ的誇張としてスルーするとしても、ヒロインが操縦士の後ろに立ってあれこれ指示を出しているのは、ちょっと見過ごせないくらい変だぞ。そもそも戦車ってのは、全体を装甲で覆っている関係上、外を見るには防弾ガラス入りの細いスリットや、ペリスコープ (潜望鏡のようなもの) を覗き込むしかなくて、結果としてもの凄く視界が限られてしまう乗り物なんだわ。そのために車長という、周囲の状況を把握して指示を出すのが仕事の乗員がいるくらいで、ヒロインがやってるのは、まさにその車長の役割なんだよな。でもね、操縦士ですら前方の狭い範囲しか見えないのに、その後ろに立ってたら、外なんか絶対見えないっすよ。

一般的な戦車と同じように、砲手の後方やや斜め上に位置する車長席に座らせれば、何の問題もないのになぁ …… と思いながら、Wikipedia の記載を読んでたら、「車長が砲手を兼任する」と書いてあった。要するにこの戦車、基本的に2人乗りなんだねぇ。それでヒロインの居場所がなくて、仕方なく操縦手の後ろに立たせたわけか。なるほど、半分納得したぞ。何で半分かと言うと、あの位置じゃ外が見えないって事実は何も変わらないから

ちなみに、「車長が砲手 (または装填手) を兼任する」ってのは、現実の戦車でも行われていた。たとえば、WW2で最も優れた戦車と言われる、ソ連T-34/76もそう。しかし、この方式には大きな問題点がある。砲手は照準鏡を覗き込んで敵戦車に狙いを付ける必要があるため、射撃中は周囲がまるで見えなくなっちゃうんだわ。現にT-34/76も、それが原因で周囲の状況が把握できず、敵戦車に撃破されることが多かったんで、改良強化形のT-34/85では砲塔を大型化して、車長と砲手を分けられるようにしてるんだよね。

多分、原作であるゲームでは、1台の戦車にあまり多くのキャラを乗せたくなくて、車長に砲手を兼任させ、さらに自動装填装置を導入したのだろう。ゲームなら、プレイヤーは俯瞰的な視点で状況を見ることができるから、不自然さに気付きにくいし、そもそも車内の様子を見せなければ良いわけで。でも、アニメだと見せないわけにはいかないから、あんな風になっちゃったんじゃないかな。

でもさ、そういうことなら、ヒロインがムリヤリ主人公の背中におぶさるような形にすれば良かったんじゃない?そうすれば、車長用のスリットまたはペリスコープで周囲を確認できるじゃん。おまけに2人を密着させることで、嬉し恥ずかし的ブコメ演出も可能になるし、一挙両得っすよ。つーことで、DVD化するときは、そういう風に修正してください。← 無理を言うな

後、今からでも遅くないから、過去の戦争映画や記録フィルムを浴びるほど見て、戦車や歩兵の戦い方について、もうちょっと勉強してくださいな。知ってて意図的に嘘をつくのと、知らずに間違ったことを描くのは、全然違うんだから。