「ウォッチメン」感想

新高島のシネコン「ウォッチメン」を鑑賞。「良くもまあ、ここまで原作を忠実に再現したもんだなぁ」というのが、とりあえずの感想。何でも監督のザック・スナイダーは、20世紀フォックスが用意した脚本を使わず、原作をほぼそのままストーリーボード (絵コンテ) に置き換えて映像化したのだそうな。もちろん、163分という長尺作品とはいえ、原作のすべてを映画化するのは不可能なので、オミットされた部分 (劇中劇である海賊マンガ部分や、脇役たちのドラマ部分) も多いが、メインプロット部分に関しての再現度は完璧と言って良いだろうと思う。

再現度だけでなく映像も凝りに凝っていて、ザック・スナイダーお得意の、深みのある "作り物の美しさ" を堪能できる。特にボブ・ディランの「世界は変わる」をBGMに使ったオープニングクレジットは、部分的に超スローモーションで動く3Dスチル写真 (何それ) といった趣きで、凄くカッコイイ。そこだけでも何度も見たくなる出来の良さだ。

キャスティングも的確で、特にコメディアン、ナイトオウル2世、Dr. マンハッタンは、原作のイメージそのままと言って良い俳優を起用している。オジマンディアスはちょっとイメージが違うけど、キャラクター設定自体が、原作の「鼻持ちならないほど自信満々な完璧超人」から、「冷静で内省的なマキャヴェリスト」へと微妙なアレンジを施されているため、違和感はない。シルクスペクター2世は、明らかに原作より美人になってるけど …… まあ、娯楽映画には華が必要だし

ところで、いきなり余談だが、ATOK様は「おじまんでぃあす」をお自慢ディアス」と変換なさった。さすがはATOK様、あまりにも的を射た誤変換っぷりに惚れ直しましたよ、私は。

閑話休題。キャスティングの話の続きだが、個人的に一番好きなロールシャッハは、声と言い素顔 (ほとんど出ないけど) と言い、ドンピシャのキャスティング。妥協を知らないハードボイルドな極右主義者というロールシャッハのキャラクターを、見事に演じている。ネタバレを避けるために具体的には書けないが、ラスト近くで彼がマスクを脱ぎ捨てて叫ぶシーンは、やはり泣けた。あのシーンがちゃんと描かれていただけでも、私としては満足である。

とまあ、そんな感じで、基本的にはかなり出来の良い映画だと思うのだが、問題がないわけではない。最大の問題点は、前述したように脇役のドラマをほぼ全てオミットしてしまったことだ。新聞スタンドの親父と黒人少年、レズビアン社会運動家とその恋人、ロールシャッハの精神鑑定を行った精神医とその妻。彼らの日常生活が描かれなかったことで、あるキャラによって実行される「強制的な方法による世界平和実現」の冷酷さと、それを認めざるを得ない者たちの苦悩が、上手く伝わらなくなってしまっているのだ。

もちろん、尺の問題があるから脇役のドラマまで描けないという事情はわかるが、それならせめて、彼らの無惨な死体は見せておくべきだったと思う。映画ではその辺があまりにも「クリーン」に描かれてしまっている。原作におけるあの地獄絵図は、物語として必要不可欠なものだったのに。原作の忠実な再現にこだわったザック・スナイダーにしては、画竜点睛を欠く行いだったと言えるだろう。

それと、これは映画としての問題ではないが、この作品を理解するためには、1945年〜1985年のアメリカの歴史に関する、基本的な知識が必要だと思われる。キューバ危機やケネディ暗殺、ベトナム戦争といった史実とその改変が、ナレーションやセリフによる説明なしで描かれ、なおかつそれらが重要な意味を持っているため、基礎知識がないとわかりにくいのだ。

つーことで、トータルとしての評価は「出来は良いけど画竜点睛を欠く惜しい映画」ってとこかなぁ。でもまあ、DVDが出たら買うけどな。オミットされた部分を含む210分版の「Crazy Ultimate Freaky Edition」が収録されるらしいし。

 

[おまけ:Saturday Morning Watchmen]

「もしウォッチメンが、昔ながらのアメコミカートゥーンとして作られたら?」という設定のパロディ動画をご紹介。原作または映画を見た後だと、いっそう笑えるぞ。